トレーニングが終わったあと、ビールや日本酒で一息つきたくなる人もいるでしょう。

では、筋トレ後のお酒は本当に「筋肉を壊す」のでしょうか。それとも、そこまで気にする必要はないのでしょうか。

研究を見ると、運動後に多量のアルコールを摂取すると、筋たんぱく質合成が抑えられたり、筋損傷後の筋力低下が大きくなったりすることがあります。

「筋トレ後に一杯飲んだら、その日のトレーニングは無意味になる」

とまでは言えません。

翌日の筋力やパワーには明確な差が出なかった研究もあり、アルコールの影響は摂取量や運動内容によって変わります。

この記事では、筋トレ後のお酒が回復や筋肉の適応にどう影響するのかを、現在の研究から整理します。

結論から

現在の研究からは、次のように考えられます。

  • 運動後の多量の飲酒は、筋たんぱく質合成を抑えることがある
  • 筋損傷を伴う運動後では、その後の筋力低下が大きくなった研究もある
  • 一方で、筋力・パワー・筋肉痛などには明確な差が出なかった研究もある
  • 「一杯飲んだら筋肥大しない」と言えるデータはない
  • 長期的な筋肥大への影響は、まだ十分に分かっていない

「筋肉を作る反応」と「翌日問題なく動けるか」は別ものです。

筋たんぱく質合成が低下していても、翌日の筋力には差が出ないことがあります。

逆に、筋損傷が大きい状況では、アルコールによって筋力低下が大きくなる場合もあります。

研究で使われる「多量」はどのくらい?

最初に確認しておきたいのが、アルコールの量です。

研究では「体重1kgあたり何gのアルコールを摂取したか」で表されることがあります。

体重70kgなら、次のようになります。

研究条件

純アルコール量

0.5 g/kg

約35g

1.0 g/kg

約70g

1.5 g/kg

約105g

図1. 研究で使われるアルコール量の目安(体重70kg)
図1. 研究で使われるアルコール量の目安(体重70kg)

たとえば、ビール5%・500mlに含まれる純アルコールは約20gです。

つまり、1.5 g/kgという研究条件は、体重70kgなら純アルコール約105g。

普段の「一杯」より、かなり多い量です。

実際、後ほど紹介するParrら(2014)の研究では、1.5 g/kgのアルコールが使われています。論文では、オーストラリア基準で平均12±2スタンダードドリンク(純粋アルコール量としてかなり多量)とされています。

そのため、これから紹介する研究結果をそのまま、

「ビール1杯でも同じことが起こる」

と考えるのは適切ではありません。

多量に飲むと、筋たんぱく質合成は下がる?

筋トレをしている人にとって特に気になるのが、筋肉を作る過程への影響です。

Parrら(2014)は、活動的な男性8人を対象に、運動後の筋原線維たんぱく質合成を調べました。

参加者はレッグエクステンションに加えて、自転車による持久運動と高強度インターバル運動を行っています。

その後、次の条件を比較しました。

  • ホエイたんぱく質25g
  • ホエイたんぱく質25g+アルコール1.5 g/kg
  • 糖質+アルコール1.5 g/kg

筋たんぱく質合成は、すべての条件で安静時より上昇しました。

しかし、アルコールなしのプロテイン条件と比べると、

  • プロテイン+アルコールでは24%低い
  • 糖質+アルコールでは37%低い

という結果でした。

図2. 運動後の筋たんぱく質合成の相対比較
図2. 運動後の筋たんぱく質合成の相対比較

つまり、

プロテインを飲んでいても、多量のアルコールを一緒に摂取すると、運動後の筋たんぱく質合成の上昇が鈍くなる

ことを示した研究です。

ただし、この研究には重要な注意点があります。

アルコール量は1.5 g/kgとかなり多く、参加者は8人です。また、レジスタンストレーニングだけではなく持久系運動も組み合わせています。

さらに、測定しているのは運動後の短期的な筋たんぱく質合成です。

「飲んだ翌日に筋肉が24%減る」

という意味ではありません。

短期的な合成反応と、数か月後の筋肥大量は分けて考える必要があります。

筋肉を作るシグナルにも影響する?

筋たんぱく質合成の調節に関わる経路のひとつに、mTORC1があります。

Duplantyら(2017)は、レジスタンストレーニング経験のある男性10人・女性9人を対象に、高強度のスクワット後の反応を調べました。

男性では、運動後3時間時点のmTORやS6K1のリン酸化が、アルコール条件で低くなりました。

一方、女性では同じような抑制は明確ではありませんでした。

ここから、

「女性なら筋トレ後に飲んでも問題ない」

とは言えません。

この研究では、アルコールに対するシグナルの反応が男女で異なった、というところまでです。

そして、シグナルが低下したことと、長期的な筋肥大が止まることも同じではありません。

翌日の筋力やパワーも落ちる?

ここから少し話が複雑になります。

筋肉を作る反応には変化があっても、実際の筋力やパワーには差が出ない研究があるからです。

Lakićević(2019)は、レジスタンス運動後のアルコール摂取と回復について12研究を系統的に整理しました。

その結果、アルコール摂取後でも、

  • 筋力
  • パワー
  • 筋持久力
  • 筋肉痛
  • 自覚的運動強度

などには、一貫した悪化が確認されませんでした。

一方で、コルチゾールの上昇や、テストステロン、血中アミノ酸、筋たんぱく質合成の低下は報告されています。

つまり、

体の中で起きている変化と、実際に「力が出るか」は必ずしも一致しません。

図3. 「作る反応」と「翌日の力」は同じではない
図3. 「作る反応」と「翌日の力」は同じではない

「翌日いつも通り挙げられたから、アルコールの影響はなかった」

とも、

「筋たんぱく質合成が下がったから、翌日は力が出ない」

とも単純には言えないということです。

筋力低下が大きくなった研究もある

では、アルコールは筋力回復には関係ないのでしょうか。

そうとも言い切れません。

Barnesら(2010)は、健康な男性に大腿四頭筋の最大エキセントリック収縮を300回行わせ、その後に1.0 g/kgのアルコールまたはノンアルコール飲料を摂取させました。

36時間後、運動した脚ではどちらの条件でも筋力が低下しました。

ただし、その低下はアルコール条件でより大きくなりました。

平均ピーク等尺性トルクでは、

  • ノンアルコール:約29%低下
  • アルコール:約41%低下

でした。

コンセントリック、エキセントリックのトルクでも、同様にアルコール条件で大きな低下が確認されています。

この研究は通常の筋トレそのものではなく、300回の最大エキセントリック収縮という強い筋損傷を起こす条件だった点に注意が必要です。

つまり、

「1.0 g/kg飲めば、普通の筋トレでも必ず筋力が41%落ちる」

という意味ではありません。

量を減らすと結果は変わる?

同じ研究グループは、より少ないアルコール量でも実験しています。

Barnesら(2011)では、同様に筋損傷を起こす運動のあとに0.5 g/kgのアルコールを摂取しました。

この条件では、アルコールによって筋力低下がさらに悪化するという明確な結果は確認されませんでした。

これは、アルコールの影響が摂取量によって変わる可能性を考えるうえで重要な結果です。

「0.5 g/kgまでは安全」と証明した研究ではありません。

特定の運動、特定の参加者、特定の回復指標で、追加の悪化が検出されなかったという結果です。

飲酒量の安全ラインや、筋肥大に影響しない上限を決めた研究ではありません。

では「一杯」なら気にしなくていい?

ここが実際には一番知りたいところかもしれません。

しかし、現在の研究から、

「ビール○本までなら筋肥大に影響しない」

という線はまだ引けません。

筋たんぱく質合成が明確に低下したParrらの研究では1.5 g/kgという多量のアルコールが使われています。

筋損傷後の筋力低下が悪化したBarnesらの研究では1.0 g/kg、一方で追加の悪化が確認されなかった別の研究では0.5 g/kgでした。

現在の研究から言えるのは、量が多くなるほど、回復への悪影響を考える材料は増える。ただし、少量なら筋肥大に影響しないと証明されているわけでもない、というところです。

少なくとも、

「一杯飲んだら今日の筋トレは無駄」

と考える必要はありません。

ホルモンが変わったら筋肉が減る?

運動後のアルコール摂取では、テストステロンやコルチゾールが変化した研究もあります。

しかし、ここも注意が必要です。

ホルモンの数値が変化したからといって、それだけで長期的な筋肥大への影響は決められません。

実際、2019年の系統的レビューでは、ホルモンや筋たんぱく質合成に変化が報告されている一方で、筋力やパワーには明確な変化が確認されない研究が多く含まれています。

そのため、

「テストステロンが下がる → 筋肉が減る」

と単純につなげるのは避けた方がよいでしょう。

長期的な筋肥大はどれくらい減る?

ここは、まだ分からないことが多い部分です。

今回紹介した研究の多くは、

  • 数時間の筋たんぱく質合成
  • 運動後のシグナル
  • 24〜60時間程度の筋力・パワー
  • 筋肉痛

などを調べています。

数か月にわたって飲酒量をコントロールしながらレジスタンストレーニングを行い、最終的な筋肥大量を比較した質の高い研究は十分ではありません。

したがって、

「筋トレ後に○g飲むと筋肥大が○%減る」

という数字はまだ出せません。

短期的な筋たんぱく質合成の低下を、そのまま長期的な筋肥大率に置き換えるのも適切ではありません。

この研究から言えないこと

「ビール1杯で筋トレが無駄になる」

言えません。

筋たんぱく質合成への大きな影響が確認された研究では、かなり多量のアルコールが使われています。

少量の影響がゼロと証明されたわけではありませんが、「一杯=筋肥大停止」を支持する直接的なデータもありません。

「プロテインを飲めばアルコールの影響を打ち消せる」

これも言えません。

Parrらの研究では、プロテインを一緒に摂取していても、アルコールなしのプロテイン条件より筋たんぱく質合成が低くなりました。

「翌日の筋力が落ちなければ問題ない」

筋力やパワーに差がなくても、筋たんぱく質合成など別の指標が変化している場合があります。

翌日のパフォーマンスと筋肉の適応は、同じ指標ではありません。

「0.5 g/kgまでは安全」

Barnesらの研究では、0.5 g/kgで筋損傷後の筋力低下がさらに悪化する結果は確認されませんでした。

しかし、それは安全な飲酒量や、筋肥大に影響しない上限を決めた研究ではありません。

「長期的な筋肥大が何%減るか分かっている」

分かっていません。

現在の直接的な研究は短期的な回復や筋たんぱく質合成を調べたものが中心です。

今日から試せること

図4. 実践の優先順位
図4. 実践の優先順位

研究から「ここまでなら飲んでOK」という量は決められません。

そのため、実践では細かな数字よりも優先順位を考えます。

1. 回復を優先したい日は、多量に飲まない

現在の研究で悪影響が比較的はっきりしているのは、多量のアルコールを摂取した条件です。

特にハードなトレーニングのあとに飲酒量が増える習慣があるなら、まずそこを減らすのがシンプルです。

2. 「一杯飲んだから全部無駄」と考えない

研究で使われている多量の条件と、日常的な少量飲酒を同じものとして扱う必要はありません。

飲んでしまったからといって、その日のトレーニングが無意味になったと考える根拠はありません。

3. 飲む量が増えないようにする

現在の研究では、安全な上限はまだ分かりません。

ただ、0.5 g/kgと1.0〜1.5 g/kgで異なる結果が報告されていることからも、量を無視して「飲む・飲まない」だけで考えるのは適切ではありません。

飲む場合でも、量が大きくならないようにすることは現実的な考え方です。

4. お酒だけでなく、その日の回復全体を見る

飲酒すると、

  • 就寝が遅くなる
  • 食事が乱れる
  • 翌日のトレーニングに影響する

といったことも起こり得ます。

アルコールそのものの影響だけを見るのではなく、睡眠や食事を含めた回復全体を見る方が実用的です。

5. 翌日の「挙がった・挙がらない」だけで判断しない

翌日に普段と同じ重量を扱えたとしても、それだけで筋肉への影響がなかったとは言えません。

逆に、少し調子が悪かっただけで「筋肉が減った」と考える必要もありません。

短期的なパフォーマンスと長期的な筋肥大は分けて考えます。

Logritの結論

筋トレ後のお酒は、

「飲んだら全部無駄」

でも、

「翌日普通に動ければ問題ない」

でもありません。

多量のアルコールを運動後に摂取すると、筋たんぱく質合成が低下した研究があります。

筋損傷の大きい運動後では、その後の筋力低下が大きくなった研究もあります。

一方で、筋力やパワーには明確な差が出なかった研究もあります。

そして、少量の飲酒で長期的な筋肥大がどれくらい変わるのかは、まだ十分に分かっていません。

だからこそ、実践はシンプルです。

回復を優先したい日は、多量に飲まない。

飲んだとしても、「筋トレが無駄になった」と考えない。

そして、アルコールだけではなく、睡眠や食事まで含めて回復を考える。

「何杯までならセーフか」という境界線を探すより、まずは飲酒量を大きくしないことから考えるのが現実的です。

参考文献

1. Parr EB, et al. Alcohol ingestion impairs maximal post-exercise rates of myofibrillar protein synthesis following a single bout of concurrent training. PLoS One. 2014.
DOI: 10.1371/journal.pone.0088384 / PMID: 24533082

2. Lakićević N. The Effects of Alcohol Consumption on Recovery Following Resistance Exercise: A Systematic Review. J Funct Morphol Kinesiol. 2019.
DOI: 10.3390/jfmk4030041 / PMID: 33467356

3. Barnes MJ, Mündel T, Stannard SR. Post-exercise alcohol ingestion exacerbates eccentric-exercise induced losses in performance. Eur J Appl Physiol. 2010.
DOI: 10.1007/s00421-009-1311-3 / PMID: 20012446

4. Barnes MJ, et al. A low dose of alcohol does not impact skeletal muscle performance after exercise-induced muscle damage.
PMID: 20878178

5. Duplanty AA, et al.
PMID: 27135475

6. Haugvad A, et al.
PMID: 24658221

7. Levitt DE, et al.
PMID: 29385007

8. Duplanty AA, et al.
PMID: 28386694

9. Vingren JL, et al.
PMID: 23470309

免責事項

この記事は、トレーニングや健康に関する一般的な情報を提供するものです。医療行為の代替ではありません。

記事中のアルコール量は研究条件を理解するために示したものであり、「ここまでなら安全」という飲酒量を示すものではありません。

飲酒には筋トレ以外の健康リスクもあります。アルコール依存、肝疾患、服薬、妊娠・授乳など、飲酒について個別の判断が必要な場合は医師などの専門家に相談してください。